ところが、その話し合いがあってから1週間過ぎた頃、ぴよ子がちょっとした事件を巻き起こしてしまったのです。
実は兆候は既に表れていました。気のせいかな?とは思っていたのですが、園にぴよ子を迎えに行っても、よそのお母さんにべったりと甘えに行って、なかなか家に帰りたがらなくなっていたのです。
気のせいかな、そんな時期もあるのかな?お友達の家になかなか遊びに行けないからかな?と思おうとする反面、遠い過去に、わたしも、同じようなことをしていた記憶が甦り、え、、、まさか、この子、わたしを怖がってる?!というショッキングな直感が頭をよぎったことがあったのでした。
それからしばらくしたある日。お迎えに行ったら、ぴよ子が誰々ちゃんちに遊びに行く!と駄々をこねました。誰々ちゃんのママは、ぴよ子がよく甘えていたお母さんです。それでも、その日は、ぴよ子は、明らかにテンションが変で、これは遊びに行かせても、相手のお母さんが大変になるかもしれない、と思い、一旦は断ろうとしたものの、ぴよ子が泣いてきかず、押し切られるように、遊びに行かせてもらうことにしたのでした。
相手のお母さんが車で園にお迎えに来ていたこともあり、わたしは園庭でよろしくお願いします、とぴよ子を預け、そのまま、帰路に着いたのでした。
でも、家について一息つくまでもなく、携帯が鳴ったので出たら、ぴよ子と一緒に子供を遊びに行かせることになっていたお母さんからの電話。ぴよ子が泣いて大変だから、やっぱり迎えに来て欲しい、との連絡だったのです。
大慌てでトンボ返りして来た道を園に戻ると、駐車場の側で、ぴよ子が大泣きしていました。事情をよく聞いてみると、ぴよ子が、お友達のママの手を繋ごうとして、お友達とママの手の取り合いになって、喧嘩になって、お友達の顔を引っ掻いてしまった、というのです。
人に手を出すことは厳しく叱っている為、滅多なことではお友達を叩いたりするような子ではないのに、よりによって顔を引っ掻いてしまうなんて、、、。
コトの異常さに、わたしはぴよ子のせっぱ詰まった気持ちを感じ、とにかく今日はお家に帰ろう、とぴよ子を引き取ろうとしたのですが、ぴよ子は、わたしの元に来るのを嫌がって、お友達のママにしがみついて離れようとしませんでした。
それでも、相手のお母さんたちにも、もうこれ以上ご迷惑かけられないと思い、何度もごめんなさい、と謝りながら、ぴよ子を抱きかかえて、取り押さえると、ぴよ子は大泣きしていやだいやだ、と泣き叫びながら暴れて、抱きかかえるわたしの手を思い切り噛んだのでした。それは大人のわたしでも、思わず痛いっ、と声を上げてしまうくらいの、渾身の力が入った噛み方でした。
その様子にぴよ子は我に返ったのか、暴れるのを止めました。わたしは痛みと、噛まれたショックと、ぴよ子の不憫さと、自分自身への情けなさでぐちゃぐちゃになった気持ちで、ぴよ子に、ごめんね、ごめんね、と謝りながら、その場にしゃがみ込んで、ぴよ子を抱きしめたまま、泣き崩れてしまいました。そうしてしばらく二人でオイオイ泣いていたのでした。
少し落ち着いてから、二人で木陰に移動して、ぴよ子とお話しました。ごめんね、まーちゃん、ぴよ子に、いっぱい怒ってばっかりだったね。ぴよ子、まーちゃんがぴよ子のこと、好きじゃない、って思っちゃったんでしょ?と聞くと、ぴよ子はこっくり頷きました。そして、ぴよ子も、噛んでしまったことを後悔していたのか、まーちゃん、ごめんね、って謝ってくれたのでした。
こんなにもこの子のことを追いつめてしまっていたんだ、、、そう思ってわたしは愕然としました。そして、激しい自己嫌悪に襲われたのです。絶対やらない、って決めていたのに、子供を追いつめるようなことをしてしまった。やっぱりわたしは親になんてなっちゃいけなかったんだ、と。
この事件がきっかけで、わたしは自分のやらかしてきたコトの重大さに気づいて、目が醒めたような思いでしたが、一方ではもうどうしていいのかわからないような気持ちになってしまい、すっかり子供を育てていくことへの自信を失ってしまったのでした。